大会スタッフリレーエッセイ

君たちのパワーに触れることはむしろぼくの楽しみ
第16回大会デザイン審査リーダー 長谷川淳一

予告した順番が入れ替わりますが、デザイン審査リーダーの長谷川淳一さんからのエッセイをお届けします。


デザインイベント統括リーダーの長谷川(トヨタ車両技術開発部)です。

ぼくは子供の頃から自分で運転する乗り物が好きで、中学時代は自転車、高校はオフロードバイク、大学生になるとおやじのクルマを勝手に改造し、ラリーの真似事で丹沢や奥多摩の林道を走り回っていました。何も深く考えないままその延長線上で自動車会社に入り、運動性能に関わる実験部に配属。その後オーストラリアに3年間駐在し、ランドクルーザーでないと生きていけない厳しい内陸部の環境を調査したり、製品企画本部にも5年いてパッケージの企画や原価や質量の管理もしたり、とクルマ全般を見る仕事をしてきました。現在は東富士研究所で再び動的性能に関わる仕事をしています。

乗り物好きの趣味はその後も高じてパイロットライセンス取って小型機で飛び回ったり、外洋ヨットでレースに出たりもしています。でもやっぱりクルマが一番好きで、スーパーセヴンで走る箱根が至福の時です。学生フォーミュラカーより2回りほど大きい(530 kg)けれど、軽量、シンプルイズベストを公道で味あわせてくれるクルマですね。

結婚してラリーからは遠ざかっていたんですが、2005年に40歳(不惑)になったとき、自分が自動車技術者になった原点をもう一度見つめ直してみようと再度ラリーに挑戦。せっかくなので世界トップのイベントを!ということでWRCラリーオーストラリアに出ました(もちろん国際ライセンスを取得したり、3年くらい前から準備はしてます)。

そういうバックグランドがあって、当時の実験部長が2006年に学生フォーミュラのデザインスタッフとして推薦してくれ、現在に至っています。

ラリーは3年後の2008WRCラリージャパンにも出ましたが、その時は2007-8大会で知り合った北海道大学のフォーミュラチーム員が札幌ドームでのサービスをやってくれました。この時は夜中の2時までかかってミッション交換を敢行しなんとか完走。北大のメカニックたちはさすがフォーミュラやってるだけあっていい仕事をしてくれました。打ち上げパーティで一緒に飲んだビールのうまかったこと。オーストラリアもジャパンも、ワークスドライバーであるペター・ソルベルグもセバスチャン・ローブもリタイヤしてるから、完走したぼくの方が順位は上です(笑)。人生2回目のラリーチェレンジもここで終わりますが、WRCを2回完走したことはいい思い出でもあり誇りでもあります。

13年間も学生フォーミュラに関わっていると、社内ですれ違う若手エンジニアに「デザインの長谷川さんですよね?○○大学の学生フォーミュラ出身の△△です、トヨタ入ったんです」と声をかけられることがしばしばあります。また、そういったメンバーが各企業内で手を挙げてデザインスタッフに志願し、今年のデザインは35名中12名が学生フォーミュラ出身者となっています。学生フォーミュラ出身でなくともデザインスタッフは皆モチベーションが高く、学生のため、大会のレベルアップのためを考えて審査に取り組んでくれます。普段は接することの少ない、いわばライバル企業のエンジニアたち、ボランティア参加の元レース業界関係者と目的を一つにして熱い思いで大会に臨む学生に対応する半年間は、ぼくにとってエネルギーをもらえる貴重な機会です。デザインスタッフは結束力が強く、事前ワーキングや大会本番でも毎晩飲みに出るので、これもまた楽しみであります(笑) 。上司の理解にも恵まれ「長谷川は会社来てるより学生フォーミュラやってる方が結局はトヨタのためになってるかもしれん。ライフワークにしていいよ」と言ってくれるのはとてもラッキーです。とはいえぼくらの世代がここに関わるのはそろそろ終わり。あと数年後にはデザインスタッフの80%が学生フォーミュラ出身者になってるでしょうし、その新しい世代が次世代の大会を構築していくことを期待します。

今、自動車業界は100年に一度の変革期と言われています。自動車って発明されてまだ100年なんで、要は生まれて初めての状況にさらされつつあるということです。それは今までは自分で良かれと思うクルマを作っていればユーザーが所有を望んで購入してくれたのに対し、例えばMaaSが主流になるとIT業界が主権を握って自動車製造社は従属になるといった、プレイヤーが交代する状況が起こり得る、ということです。既存のレースやラリーなどモータースポーツに対する見方も変わってくるでしょう。学生フォーミュラもEV化や自動運転競技以上の変革が生じてきそうです。しかしどんなに使うハードや環境が変わろうと、ものづくりプロセスの基本は変わりません。製品企画、それを成すためのチーム作り、日程管理、資金集め、そしてデザイン(設計)、テスト(確認評価)。学生フォーミュラ活動にはそれら全てが凝縮されています。真剣に取り組むには相当な苦労を伴うと思いますが、今後の人生においてその価値は十分にあります。われわれデザインジャッジは、その覚悟を持ってこのイベントに臨むセミプロのエンジニアとして君たちを扱っています。学生だからって甘やかしませんよ。今年もその若く熱いパワーに圧倒されることを楽しみにしています。


次回は車検リーダーの松浦孝成さんです。