未分類

学生フォーミュラOB座談会 番外編

『第16回 全日本 学生フォーミュラ大会レビュー』では特集記事として学生フォーミュラ大会OBによる座談会を実施。OBであり、かつ現在も大会に関わっている社会人としての視点から、学生フォーミュラの現状について熱い意見が交わされました。大会レビューには収まりきれなかったパネリストの方々の声を、改めてご紹介します。

パネリスト:茅野 浩之氏(豊橋技術科学大学OB)、生原 尚季氏(大阪大学OB)、和泉 恭平氏(大阪大学OB)
司会:後藤健太郎(2009年、東京大学チームリーダー)

左から座談会に参加いただいた生原氏、和泉氏、茅野氏。

 

海外に目を向けるということ
生原:この数年、私は通訳チームとして海外チームに付き添っていますが、日本大会に参加することで海外チームの人たちが少しでも何かを学んで帰ってもらえればと思いながらやっています。非常に嬉しいのは2、3年前まではまだ日本チームにアドバンテージがあると思いながら見ていたアジアのチームが、ものすごい速度でレベルを上げてきていることです。あの速度で全体のチームのレベルを上げていけるのは。おそらく現地の大会を運営しておられる事務局、審査員の方々の考え方、審査のやり方、戦略が非常に優れているのだろうと思っていますし、我々も学ばせて頂きたいと思います。その中で日本大会に来て学んでもらったことが彼らの成長に少しでも役に立っていればいいなとも思います。
逆に日本大会も頑張らないといけないと思う点ですが、海外チームから「せっかく日本大会に来たのだからと日本のチームとコミュニケーションを取りたいのに、話しかけに行ったら逃げられてしまった」と言われたことがあり申し訳なく思いました。私も以前は全然英語ができなかったので気持ちはとても分かりますが、そこで情報を取ろうとする、外を見て物を考えるということが非常に大事だと思います。個人的には日本の学生たちはいまだに国内の他チームを見ているように思うのですが、アジアから来ているチームはやはり世界を見て物を作っていると感じます。今年、プレゼンテーション審査でいくつかチームのプレゼンを見させて頂いたのですが、グラーツとアジアのチームがやっているプレゼンのベースは結構似通っていたのですが、日本のチームはまた種類が異なっていました。各国間に線があるのではなくて、世界と日本の間に線があるんだと感じて、やはりアジアのチームは世界のトップチームを見て情報を得てそこにチューニングできていると。それに対して日本だけがやはり世界に合わせたチューニングができていないのかもしれないという思いがあります。
後藤:生原さんは戦略企画委員会にも参加されていますよね?
生原:戦略企画委員会の取り組みに関しては、海外から来てくれた学生にどれだけ学んで帰ってもらうかもありますし、日本の学生をどう育てていくかということも非常に大きな課題だと思っています。もう一つ、我々には学生に対してなかなか伸びないなという思いもあると思うんですけれど、それは日本大会が他国の大会に対して学生を育てていく力がないという可能性もあると思います。この状態が続くと将来的に海外の大学が日本大会へに来なくなることも考えられ、日本の学生が学べるものも減ってしまいます。
現在は海外のチームが来ていたり、例えば今回はパット・クラークさんを招聘していたりするんですが、日本の学生がなかなか話を聞きに行かないことに対して、私自身もそこに小言を言いたい思いはあります。でも、私も気付いたのですが、自分自身も行ってないなと。今年は斎藤さんがドイツ大会の報告会を1日目にやってくださいましたが、その前を通った時に「ああ誰もいないな」と思いながら、私も参加していない。海外大会では審査員とかスタッフの方々ってお互いの大会を行き来して交流してるんです。でも日本でそれをやっている人ってドイツに行ってる齋藤さんが初めてなのではと思います。実は学生が弱いところは丸々我々と一緒なんです。
日本のスタッフで、海外の情報を得られそうな機会にそれを取りに行ける方はどれだけいるのでしょう? そういう点は我々スタッフ側もアジアの学生に学ばないといけない部分もあります。スタッフもできてないのに学生にやれというのはおかしい話だと思います。
茅野:本当に同感ですね。コミュニケーションを取りに行けない要因のひとつに言語の壁があるんだろうなとは思います。海外チームが日本チームの所に行っても逃げてしまうというのは、きっと応対できないからというのがあるからだと思いますが、多分スタッフにも同じことが起こっていると思います。日本のチームに対しては「次はどの審査に行くつもり?」とか簡単に話しかけられることが、海外チームには気軽にできないということはスタッフ側にもあります。

生原:海外大会との違いについて続けさせてもらいますと、この競争力の差はどこから来るのかと考えた結果として、組織構造の違いもあるのかなと思っています。私もまだまだ調査が足りていないのですが、アメリカやドイツの大会を見たときに皆さん通年で大会に関わっておられました。大会前からその大会に向けて準備をし、大会を運営する。そのあと次の大会に向けてこう改善しようと大きな工数を使って議論できる場もあります。業務として来られている方も多数いらっしゃいますが、ボランティアで来ている方が多いので何年も通年で関われますし業務としての縛りもありません。
例えば私が大会の通訳の仕事にアサインされるのは4月頃で8月、9月に実際に仕事をします。審査員の方々も大体4月にアサインされて4月から9月で仕事をしますが、来年度もなれるかはわかりませんし、9月で一度仕事が切れます。その中で次の大会や将来に向けてどう改善していくかという議論をどの場でするのでしょう? これが日本大会の非常に大きな弱みなのかもしれません。4月から9月の間はその年の大会の仕事にかかりきりになりますが、その中でも審査員や運営の方々から、こういうところがいけない、こうしないといけないといろんな声を聞きます。皆さんやはり社会人なので問題を見つける能力が優れているので問題はわかるんです。それを個々に感じて考えるところまでは行くのですがその後が続かない。そして次の大会が来る。結局オフシーズンに次年度検討をする組織構造が実はなかなかない。リーダー格の方々は通年でやっておられますが、その下の手を動かす人たちは仕事が切れちゃうし来年会社からその仕事がアサインされて自分が関われるかどうかもわからない状況です。会社員ですからアサインされていない仕事に工数使えないんですよね。そんな仕事していたら怒られちゃいますから。
今の日本大会には、戦略を動かして次の一手を打ち改善していくという組織の力が弱いのが難しい点だと感じています。実行委員会の偉い人たちも、いかにしてチームが成長するための手助けをしていくか、大会をどう良くしていくかという改善を、人が少ない中でなんとか色々考えて準備をしてくれているのですが、その方たちもそれで手いっぱいですから実際に手を動かしたり検討を重ねていくだけの組織ではありません。この点を考え直していかないと大会として海外に勝てないし、そもそも日本の学生に対して何かをやってあげるという時にもリソースが足りません。
後藤:そもそも皆さんの勤務時間が長いことも結構響いているのかもしれませんね。

限界の”壁”を超えるということ

和泉:生原さんが話していたことにも少し関係しますが、学生だけではなくて企業の側も限界を上げていく必要があると思っています。自分が学生の時のことですが、限界を上げることに関して印象に残っているエピソードがあります。たしか吸気系の部品を作ろうと思ったときに、その時自分達が扱っていたドリルでは必要な穴の径に対してどうしても足りなかったんです。それを大学の工場の方に何かいい方法ないかと相談したところ、動かしてないNCのフライスがあるからそれを動かすことができれば大きい穴を開けられると言われ、いろいろマニュアルを読んだりして動かし穴をあけてみたらうまく行きました。それをチームに報告したら、それならばうちの大学でも削り出しのアルミアップライトが作れるんじゃないかという話になり、実際次の年からそうなりました。あの時は自分がチームの限界を少し上げることができたと感じ、それがモチベーションにもなったし、チームの能力も上がりました。
例えばグラーツとか、ああいうチームってその限界がすごく高いですよね。それはなぜかというと彼らも直面した限界を壊していこう、例えばエンジンベンチとか高度な解析ソフトとかその計算リソースとかは企業にきちんとサポートに入ってもらおうというように、限界を上げてきたからあれだけの車が作れているのでしょう。日本でも本当に学生にもっとリソースを使って高度なことをいろいろ考えて欲しいというのであれば、それこそ企業のベンチとか風洞といった設備をもっと提供してもらえるような仕組みを作っていかなければ、学生だけではなかなか難しいでしょうね。
限界を広げられないとずっと重箱の隅の栗きんとんを突っつくだけになってしまうじゃないですか。重箱を大きくしないといけません。それは学生だけではなくて企業も取り組まないといけないことです。先ほどアジアのチームの話が出ましたが、きちんと設計プロセスを踏んでどうやって評価するかというデザインの能力はどんどん上がってきています。彼らもベンチとかロガーとかできちんと評価しています。中には自分の国で買えるエアフィルターはこれしかなかったからこれにしたんだというように、限界にぶち当たってるチームもありますが、でもそういう色んな事情の中で限界を上げているからデザインの評価もどんどん上がってきている。一方、日本のチームでもロガーがないからとかあれがないからこれがないからという理由でずっとその中でループを回しているだけという学校もどうしても見えます。大学や企業もやるって言った以上は、なかなか予算は取れないのかもしれませんが、何かできるところから学生にリソースを出せる枠を広げていかないと、という気はします。
後藤:もしかするとそういうエピソード、自分のチームはこうやって今年こういう限界を広げましたという情報を共有できると、学生の側も関わっている大人の側も、ああそういうチャレンジの仕方があるんだとか、そういうところにまだ限界があって伸ばそうとしてるんだとわかっていいかもしれないですね。どこで壁に直面しているのかは外からはわからないですし。学生もわかっているつもりかもしれませんが、本当はそれは限界ではなくて、大人に相談したら一発で解決することだったりするかもしれない。
和泉:そこに壁があるから仕方がないみたいに諦めたり受け入れたりしちゃうとやっぱり厳しい。そうやって白けてしまうのがいちばん良くないですよね。
後藤:それこそドイツ大会のチームだってAMGとエンジン作ります、風洞実験しますみたいなことは最初からあったわけではなくて、多分日本の中位下位のチームぐらいのレベルから始めてどんどん限界を広げてそうなっていったと思いますし。
茅野:この話だと、自分の母校は限界広げてきたチームですね(笑)。去年あたりからイケヤフォーミュラさんがトランスミッションコンペをやっておられますけど、あれってアプローチとしてはドイツのオリジナルエンジンの例に似ていて、そういう試みがもっとあるといいのかなと思います。エンジンだって国内に4メーカーありますからね。
和泉:そう、うちももっと頑張らないと。
茅野:コンペして学生フォーミュラ用エンジンを作ってもいいのかなと思います。それをやると学生がさらに得るところがあって切り開いてく人材がより育つと思います。その重要性を企業側も理解する必要があります。企業が関わる理由って単に採用面でのアピールというところもあるとは思いますが、それだけではなくもう少し上のレベルの次世代に向けての投資という認識を深めて企業側も学生フォーミュラに関わっていくといいのかなと思います。

大会の英語化について

後藤:大会の英語化も課題だと思いますが、これは各人が英語を勉強するだけが解ではないですよね。それこそ自動車会社に勤めていて英語ができる方に、生原さんのようにスタッフとして来て頂くという方法もありますし、一歩進めてたくさん通訳の人を雇ってみてもいい。逆にそうやって毎年この大会に来て通訳をすることで、車関係の通訳ができる人が増えていくという考え方もあるのではないでしょうか。英語を話せないことを負い目に感じて通訳を使うのは恥ずかしいという感覚もあるかもしれませんが、スタッフだけではなく学生の側も本当にコミュニケーションを取るつもりがあれば、バイリンガルのスチュワードを連れてきて通訳を頼めばいいだけの話です。そういう姿勢もありだと思います。
和泉:私は実はデザイン審査で海外チーム重点審査テントを担当しています。やはりデザイン審査員にも英語の得意不得意があって、僕は不得意なんですけどなぜか気合と根性でやれみたいな形で任されています。それでも技術英語だったらどこかでスイッチが入って話せるようになりますし、審査中でもちょっとスマホで変換するとか絵を描いて見せたりして何とかできるんですよね。
生原:実は大会の英語化に関しての検討もしています。その中で日本大会の価値として何を出すかとアピールするかというところまで掘り下げないと、果たしてやる必要があるのか、やらないと本当に駄目なのかという議論があります。この大会で我々が考慮しなければいけない対象は、今後グローバルに戦わないといけない人だけではなく、整備の学校で学びに来ている学生もいる。そういう人たちが、じゃあその将来仕事をしていく上で本当に英語が必要なのかというと、必ずしもそうではない。その方たちもお金を払ってこの大会に参加しているので、その方たちを排除するようなやり方はできないと思っています。
また、大会の英語化と一言で言っても現実的に人が足りないとか色々な問題がありますが、学生がどうせ対応できないだろうと思ってしまうのはよくないと思います。学生が対応できないかどうかは我々やその上の世代を見て決めることではないと思うんですよ。私は自分たちの世代でそれをやろうと思うと正直できないと思ってしまう。でも彼らは我々よりも英語教育が進んだ世代で、彼らがどこまで対応できるかというのを我々の価値観で縛って機会を作らない状況になってしまうのはいちばん恐ろしいことです。
日本には英語を使う必要性がないことがいちばんの問題です。なぜアジアのチームは英語に対応できているのかいえば、英語を使わないと商売ができないからです。一方、日本では日本語で仕事ができて給料がもらえます。今の日本大会では参加するためには英語のレギュレーションを読む必要があるというレベルで留めています。この先には、英語で文章を書く、コミュニケーションを取る、ディスカッションができるというレベルがありますが、これらをどうやって取り入れていくかというと、やはり必要な状況を作ることでしょう。スタッフが有り余っているわけではない現状でどうやってそういった状況を作るかが課題です。
一方、社会人の側がどういう状況を経験しているかというと、社内の大半が日本人でもたまに英語でコミュニケーションを取る必要のある人がいて、自分が全然英語ができなかったとしてもどうにかして伝えようとするうちに意思疎通ができるようになる、さらにもう少し勉強する必要性を感じて話せるようになってくる。こういったステップを越えさせてあげられるといいですね。もしかしたら、その第一歩としてうまく伝えられなくてもいいコミュニケーションが取れればいい、笑顔でハローと言えたら十分だ、と思ってもらえることが日本大会にとっていちばん大事かもしれません。例えばですが、各審査テントに1人は各社が抱えている海外から雇った人がいて、そこでコミュニケーションできるんだと徐々に自信をつけていってディスカッションのレベルまで少しずつ発展させていくことが日本大会に必要なことだと思っています。もしこれが実現できたなら学生フォーミュラを卒業した学生は臆することなく英語で国際的にエンジニアの仕事ができるようになります。グローバル化が進む社会で、とても価値のある人材になります。これなら、日本社会や日本企業が抱えている課題をこの学生フォーミュラが先に解決します! という状況を作ることができます。

後藤:英語とは別の側面ですが、学生フォーミュラって物が作れてエンジニアリングができるだけでは点数を取れない審査もあるじゃないですか。それに対してそっちを勉強するというのもありますし、経済学部の人をリクルーティングして連れてくることもできるんですよね。ですから英語に関しても同じやり方でもいいのでは、と思っています。英語を専門に勉強している学生、それで将来お金を稼いでいこうという学生もいますし、そういう方たちにも参加の機会ができるかもしれません。英語が必要な大会になると、例えば文系の学部でエンジニアリングは全然わからないけれど英語ができますよっていう人をチームに入れて、二人三脚でエンジニアリング力と英語力を足して審査に向かっていくみたいな。こういう側面でも限界を広げる、ある意味大会をちょっと難しくしていくっていうのは良いかもしれません。

1年に一度、一発勝負の厳しさ

和泉:デザイン審査員の飲み会の中でよく、日本大会は緊張感が高すぎてつまらないのではという話が出ます。普通の部活だったら練習試合とか地方戦とかがちょこちょこあって、例えば甲子園には出場できず悔しかったけど普段の練習試合は楽しかったと思えるかもしれませんが、学生フォーミュラにはそういうのがなくて、ワンミスも許されない年に1回の大会に向かって活動してきて、さあ伸るか反るかという感じで勝負が重すぎると感じます。
例えば動的審査だったら単一種目だけでオープンレースがあり、オフィシャルではないが準オフィシャル的にポイントが付いてシリーズランクが決まるとか、静的審査だったら英語オンリーの静的審査が年に何回かあってとか。学生が年間の活動の中で何度か活躍できる場があってその集大成がこの大会ですというように楽しいイベントにしていくことも考えたいですね。今思い返せば僕もやっていて辛かったですよ。作ったものがああ壊れて、それを治したときはまあ楽しかったですけれど、そうじゃない楽しさというのを僕らも考えないといけません。
デザイン審査をしていると、学生が委縮して完全に引いてしまっていることがよくあります。上位チームであれば、審査員としっかり話して自分の思いを伝えた上で評価されて楽しいなって思ってもらえるんですが、下位チームだと何を評価されているのかもわからないし、プロの人がガンガン言ってくる怖いだけの場になっていることもあります。僕はなるべく「どう緊張してるけど大丈夫?」って聞いたりして緩和しようとはしていますが、やはり大人と学生という時点で壁があるので、それをうまく取っ払いたい。それこそプロなんだからそういう工夫もやっていかないと、と思っています。
後藤:学生フォーミュラっていう活動そのものの魅力が、今は結構マニアックな魅力しかないのかもしれませんね。
和泉:だからほとんど機械系の学生しか来ないんですかね? メカトロが得意な人はロボコンに行くし、英語やってる人にとってはそんな1年かけて車作るなんて大変だよ、みたいな。
後藤:新しいチャレンジをして突破しているところもあるにはあるので、そういう場なんだというのを伝えると同時にそういう場としての魅力を上げていく必要がありそうです。
和泉:大人の側、運営側にもこういうチャレンジが必要なんでしょうね。
茅野:現在の大会は、敷地の問題とか動的審査の時間にちょっとでも遅れたらペナルティになるとか、チーム数が多くなってきて運営が難しくなってきている側面もあると思うので、極端な話ですけど大会を2つに分けてもいいのかなと思います。場所もエコパだけじゃなくて例えば、東はお台場、西は大阪とか九州でやって、全国大会をエコパで開催するという方法もあるでしょう。ただ、やはりスタッフの確保は難しそうですね。
後藤:自主的な試走会も結構スタッフが足りないようですからね。給料が出ない割には責任があるので人を集めるのが大変らしいです。そういうのをうまく解決できる仕組みを考える必要があると思います。
和泉:それこそ僕らのような経験者が手弁当でも学生フォーミュラに帰ってきたいと思える大会にしていく、OBになった人がやっぱり楽しいからボランティアでも手伝いに行っていいよねって思える方向にしていくか、ボランティアでどうにかすること自体に無理がある状況なら会社が頑張ってお金を出すか、どちらかでしょうね。オリンピックでも話題になっていますが。
後藤:自然なのはちゃんとビジネスとして回る仕組みを作ることだと思います。ボランティアだと継続性がないですからね。楽しいからできる手弁当って限界があります。
和泉:でもドイツ大会の運営ってボランティアなんですよね。
後藤:そもそも余暇の時間が長いっていうのがあるのかも。
生原:アメリカもボランティアだったかと。
和泉:やっぱり余暇が長いからできるのかな。
生原:でもアメリカも総合すると働いている時間は日本と一緒くらいだと思う。
一同:うーん……。
後藤:今、近いことができているのは試走会とか静的審査交流会といったものですかね。こういう取り組みが増えていくと、大会だけでなく大会以外でも何かを得ることもできるし、大会で得るものもさらに増えます。先ほどトランスミッションコンペの話が出ましたけど、あれはすごくいい試みですよね。大会でどうだったっていうところまで行かなくても、技術的な限界も広げられますし、新しいトランスミッションの開発ができたと達成感を得ることもできそうです。あれも企業がかなり持ち出しでいるはずなのですが、ああいう試みがどんどん出てくると楽しむ機会が増えると思います。楽しむ機会……。皆さんそもそも学生フォーミュラの活動って楽しかったですよね?わざわざ楽しくないところに行かないですもんね?
生原:お金も出ないのにね。
和泉:お金が出たら逆にやらないですよ。お金が欲しけりゃバイトに行きますよ。
後藤:活動自体が楽しいかどうかということとはちょっと意味の違う話でしょうが、大会の場でしか評価されないというのは確かにちょっと辛さそうな、下手したら鬱になりそうな状況ではありますよね。大会以外にも色々と発信の機会があればいいのかもしれません。そういえば僕らも結構ブログ頑張っていたんですよ。僕らの頃は、ベストWebサイト賞というのがありましたけど、あれ、なくなっちゃいましたよね? 自分たちがやっていることを発信できるのはそれだけで楽しいので結構良かったんですけれどね。あるチームがすごい面白いブログを書いていたから、こちらもそれにリスペクトを受けて書いてみると向こうからも反応があって……という風にお互いにちゃんと見ていてやり取りがありました。今SNSが当然の時代ですけどそういうのって皆やってるんですかね?
和泉:強いチームと、あとはクラウドファンディングでお金を集めて部品を買っているチームはちゃんと発信していますね。僕も阪大に在籍していた時は結構ブログとかウェブ整備とかやっていました。でもそれって強いチームだから、それを広報して親御さんとかスポンサーさんとか周りの人に知ってもらいたい、それを知ってもらうことでうまく回るよね、という思いがあって初めてきちんとやろうってなるのかもしれません。多分8月になるまで車を作るのに精一杯だったそんなことできないかも。
後藤:でも、ツイッターの学生フォーミュラクラスタ見ていると、今の東大チームってかなり大変な思いしてるはずですけど、それでもツイッターでは暴れています。
和泉:書きやすいのかもしれないですね、140文字だったら。
後藤:そういう、自分たちも頑張っているんだとか、結構すごいことやったぞみたいなアピールとかって、承認欲求って言っちゃうとなんか嫌らしい感じしますけど、それを満たせるっていうのはやはりモチベーションになると思います。自分としてもそうだった気がするので、そういう場を用意するまではいかなくても盛り上げることができてもいいかもしれない。そういえば審査によってはフェイスブックにアンオフィシャルですがグループがありますね。めちゃくちゃ真面目ですけどね、あのグループ。
茅野:あそこに書き込むのはちょっと勇気がいりますよね。
和泉:勇気いりますねえ。
後藤:もうちょっとラフに交流できる場があると……ツイッターなのかなやっぱり。最近の学生ってもうあんまりフェイスブックやってないですよね。
和泉:インスタグラムじゃないですか今は。
後藤:とりあえず東大の子たちにポストしろって言ってみましょうかね。
和泉:ドディオンとか面白いことをやっているので、ぜひ空気読まずにポストして欲しいですね。
後藤:結構そういう面で今の東大チームには期待しています。彼ら、変わったことやってやるぜという感じもあるし、なぜかすごく明るいので。審査が二の次になっていないかは少し不安ですが、ある程度二の次になっちゃってもいいと思います。学生フォーミュラって点数を取ることが目的じゃなくて、この活動を通じて成長することが目的のはずなので。
和泉:こういうことがやりたいっていうのが始めにちゃんとあると、モチベーションが続きやすいとは思います。とはいえ点数や順位が残らないとだんだん嫌になってきて白けちゃうものなので、バランスよくやって欲しいですね。

(この座談会は2018年9月、大会現場にて収録したものです)