皆さんこんにちは、昨年度から学生フォーミュラ大会のEV化にむけて、新たに発足したEV推進委員会の委員長を務めています神奈川工科大学の狩野です。
自動車技術会では、大会実行委員会・将来検討・広報戦略など、学生フォーミュラを総括する学生フォーミュラ会議で将来にむけたロードマップを策定しています。その中で、直近の大きな目標の一つが、25年大会において参加校の半数までEV化を推進することです。もちろん、これはEV化だけではなく、自動運転などを含む新たなチャレンジプログラムへの発展を見据えたもので、これは自動車業界が皆さんに何を期待しているかを表わしています。
2013年から量産車両のモータ/インバータをはじめとしたEV支援がスタートしています。部品に限らず、使いこなすための技術支援を受けることができるので、EVに挑戦したチームは確実に走る車両を完成させ、さらに、その後はオリジナルの部品調達へ切り替え、大会でもICVと互角の性能になってきました。しかし、このステップを乗り越えるためには多くの時間と工数が必要になるため、EV推進委員会では、新たなチャレンジプログラムを検討してきました。
その中で、モータのレスポンスを生かしてキビキビと走り、様々な制御が可能で、さらには高出力にステップアップできる小型軽量モータを使った標準キットといえるスペックを提供できることになりました。5月26日から横浜で開催される『人とクルマのテクノロジー展』で詳細について発表いたします。
今回は速報としてその概略をお知らせします。新しく提供を開始するモータ/インバータのスペックは以下のとおりです。
<学F支援モータ/インバータ概略>
【モータ仕様】水冷方式
・ モータ形式:三相交流同期式
・ 冷却:水冷(ウォータージャケット一体)
・ 重量:約10kg
・ 最大出力:27kw@300Vdc
・ 最大トルク:60Nm
【インバータ仕様】
・ Single inverter
・ 冷却:水冷(冷却器内蔵)
・ 体格:(279)×(208)× (153) mm
・ 重量:6.4kg以下
・ 入力電圧:DC280~400V
EVレギュレーションの許容出力(80kW)に比べると小さくて「えっ!?」と思われるかもしれません。では、日本大会で活躍している200kg以下の車両重量の大半が採用している単気筒450ccの出力と比較してみてください、何よりスタートから発揮できるそのトルクと重量に魅力を感じるはずです。もちろんEVは、電池がなければ走らないので、その重量を含めて考える必要があります。ここでも、すでに支援部品にあるラミネートタイプのリチウムイオン電池がありますので、小型軽量→少電気容量バッテリ搭載→小型軽量車体といった好循環にすることができます。また、駆動システムもエンジンをモータに置き換えてドライブトレインを組み上げることでICVの技術を継承することができますし、さらには2モータで左右駆動力配分制御へとステップアップも可能です。
この前提になるのが、チームの長い経験をへて培われた軽量化の車両製作技術です。これをベースにしなければ小型軽量の高性能EVは開発できませんし、EVシステムを含む車両開発そのものを経験してもらうことが皆さんに期待されていることです。
それでも、疑問や不安が色々とあると思います。5月の公募とあわせて、EV講座のラインアップも強化して、さらには具体的なシステム紹介など協力に皆さんのサポートを展開しますので、期待していてください。
神奈川工科大学では、2013年のイタリア大会EVクラスに日本から初めて参加しましたが、欧州チームのレベルの高さに驚くとともに、日本の現状に危機感を感じました。ドイツを中心とした欧州の大学では、EVシステムを組み上げて、車両制御にも精通した卒業生が、毎年のように数百人規模で自動車業界へ巣立っていきます。次世代自動車を担う皆さんは、その世界で活躍するためにも、信頼性の高いMade in Japanの支援部品を使って、ぜひEVの世界に挑戦してください。
関東支部で2000年のアメリカ大会へ遠征してから20年がたち、ようやくEV推進が本格化してきました。未来の技術への入り口は皆さんの手の届くところにあります。